伝統構法の担い手たち

「伝統構法」は、それを作る職人、資材、道具、それらの生産・流通を担う人など、多くの職種の下支えによって、成り立っています。どれが欠けても日本の建築文化を継承していくことはできません。人材の育成が大切です。

樹木が家の材となるまで

山に育つ木が、建物を構成する材料となりますが、木は単なる建築材料ではなく「いのちあるもの」と捉えられていて、そのいのちを家や堂宮に「使わせていただく」ことに感謝をしながら、伐採します。この「樹木であった頃の木の性質」を、大工は読み取り、よく活かすことを心がけるのです。

杣人(そまびと)

かつては斧で伐っていましたが、昭和30年代以降は、チェーンソーを使うことが一般的です。
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(左より) 1.これから伐る木にお酒を奉納する 2. 木を倒す方向に、あらかじめ受け口を切っておく 3.チェーンソーで伐り倒す 4. ゆっくりと地響きをたてて倒れる (写真協力:岡崎製材所)

 

製材

かつては「木挽き(こびき)」が、山の木を材にしていました。今では、製材所でその仕事をしています。木の目や木の芯の近くと周縁部などの性質の違いなどを活かしながら、なるべく無駄なく材にする「木取り」が大事です。
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(左より) 1.土場に積まれた原木 2. 製材所のバンドソーでスライスされていく。どんな木の表情が出るのだろうか 3. 桟積みにして乾燥 4.建築材料に使われる製品となった板材(写真協力:1.2.3.岡崎製材所 4.坂本林業)

 

木が建築材となる

大工には、社寺を建築したり修理したりする「堂宮大工」、民家や町家など人々の住む家をつくる「家大工」、茶室などをつくる「数寄屋大工」がいます。何百年というスパンで仕事する堂宮大工から、庶民の家をつくる家大工まで、木のいのちを最大限に活かす方向で用いる技術の基本は、共通です。

大工

丸太のままの木を用いることもあるので、作業場には、製材品だけでなく大工が見立てた原木がストックされていることももあります。チョウナではつり、墨付けします。曲がりのある丸太でも正確に墨を出せる大工の知恵があります。
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(左より) 1.原木を選ぶ大工 2. さまざまな材料が並ぶ作業場 3.曲がり材の墨付 4.チョウナでのはつり作業(写真協力:1.木又工務店 2.綾部工務店 3.大江忍 4.オダ工務店)

現場で木組みで組み上げられるよう、墨を付け、女木と男木の刻み加工をほどこします。
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(左より) 1.やりがんなで表面を加工する 2. どんな材料をどう組み上げるかを示す板図 3.鑿で女木加工をする 4.突き鑿での加工(写真協力:1.宮村樹 2.ストゥディオ プラナ 4.サスティナライフ 3.綾部工務店)

 

いよいよ材料を現場に持ち込み、木組みによる架構を順序よく組み上げていきます。棟が上がると、祝いの餅をまく習慣があります。
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(左より) 1.柱を立てる。女木の部分に梁や貫が刺さる 2. 掛矢で叩いて、棟木をおさめる 3.4. 建前のクライマックスの餅まき(写真協力:1.大江忍 2.村上建築工房 3.4.綾部工務店)

 

ほか、多くの職方

建築は、軸組だけでは成り立ちません。屋根がかかり、壁がつき、床ができ、建具が入ることで、仕上がっていきます。堂宮の場合、錺や彫刻も大事な要素となります。

屋根葺師(瓦、板、萱)

軸組の基本は共通でも、屋根が地域の風景のバリエーションを決めるといってもよいほど、屋根は気候風土や建物の性格をあらわすものです。
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(左より) 1.茅葺き職人 2. 瓦屋根 3.板金仕事による銅屋根(写真協力:1.伝匠舎 石川工務所 2.3.大江忍)

 

左官

壁には板壁と土塗り壁があります。塗る仕事は、左官職がしますが、壁土をつくったり、下地を編んだりする仕事もあります。
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(左より) 1.藁スサと水を合わせて発酵させた壁土。地域によっては、泥コン屋がある 2.壁土を塗る下地となる小舞を編む「えつり」職人 3.荒壁つけ 4.漆喰で仕上げ塗り(写真協力:1.岡崎製材所、2.大江忍、3.きらくなたてものや、4.ストゥディオプラナ)

 

建具・畳

壁にしない開口部は、開け閉てのできる板戸、襖、障子、ガラス戸などが入ります。床を板敷きでなく畳敷きにすることもあり、これは和の建築空間には欠かせない要素です。
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(左より) 1.建具をおさめる 2.藁床にい草表をかける畳職人 3.柱や床に拭き漆加工をする塗り師(写真協力:1.ストゥディオプラナ 2.加藤畳店 3.春野屋漆器店)

 

板戸のような木製建具や障子の枠までは建具屋がつくりますが、障子の紙を貼ったり、襖を作ったりする仕事は経師・表具師がします。襖に張る柄の入った紙を「からかみ」と言い、気の版木にキラ(雲母)・胡粉(貝殻粉)・金銀箔・粉を入れた顔料などの自然な彩りをのせて、美しい模様を摺り出します。
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(左より) 1.摺り師。篩に雲母を入れた顔料を塗り、版木にまんべんなくつけて、摺る 2.特性の版木でによる鴇(トキ)の試し刷り 3.障子や襖といった紙仕事を一手にこなる経師・表具師(写真協力:綾部工務店)

 

彫り・錺(かざり)

社寺建築では、虹梁に彫刻をしたり、仕上げに錺金物をつけたりという仕事もあります。いずれも精巧な技が集約した仕事です。
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(左より) 1.さまざまな彫刻刀を駆使して彫刻をほどこす 2.虹梁 3.板金の銅色、白木の肌の色、錺金具の金色のコントラストが美しい 4. 錺部分。たたいて延ばして加工する。(写真協力:大江忍)

 

道具を作る人たち

上記のすべての職人たちは、手の延長となる刃の道具があってこそ、はじめて仕事ができます。日本の刃物は、鉄と鋼のバランスの取れた、研ぎやすさと切れ味とがうまく調和する高度な技術でできています。

道具鍛冶

鉋、鑿、のこぎりなどをひとつひとつ手作りする鍛冶職。
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(左より) 1.大工が現場に持ち込む道具一式の例 2.刃物は火で鍛える 3.穴屋鑿(写真協力:1.ストゥディオプラナ 2.(c)竹中大工道具館 3.宮内建築)