「伝統構法」は、社寺、数寄屋、民家などの日本建築を支えて来た建築技術です。
地域らしい町なみや風景を形作り、日本人の精神性や暮らしを支えてきたものでありながら消滅の危機に瀕しています。
これを「過去の遺産」としてでなく、つねに時代に沿って変化しつつ引き継がれてきたもの、今後めざすべき持続可能型の社会において必要なものとして再評価し、復権させること。それによって、日本らしい美しい景観と自然と共生する暮らしや文化が再生することを願っています。
伝統構法を構成するさまざまな要素
構造
木組み・貫・石場建て・土壁などの変形性能に重きを置き、木のめり込み、軋みを生かす構造。
担い手
大工、左官、建具、瓦、道具鍛冶、林業、製材など、多くの人の下支えがあってこそ、成り立ちます。
心構え
自然と対立するのでなく融和する心調和・共生の思想に根ざしています。
技術
木の性質を読んで判断する「目」、適材適所に生かす「手」。
素材
山の木をはじめとする、土・竹・石・紙等の地域の自然素材。
伝承
その技や知恵は、人から人へ教え伝えられてきました。
暮らし
自然と交わる暮らしの場となり、季節を感じ、調和を尊ぶ心を育てます。
結い
共同作業がコミュニティーの力を強めてきました。
文化
茶道・華道・舞台芸能・美術工芸・武道など、日本文化を生み出し醸成する場を形作ってきました。
未来へ
製造・利用・廃棄時の環境負荷が少なく、資源循環型の社会を築く礎となります。
これからの世の中と伝統構法
地域の風景こそが日本の観光資源
2020年に東京オリンピックを控え、海外からの観光需要が高まってきます。私たちが海外旅行に行く時にそうであるのと同様、日本を訪問する人も「日本らしい風景や街並」を期待しているのではないでしょうか。「日本的な風景が残っているのは、京都だけですか?」という問いに、日本全国の美しい街並、家並み、風景を有する地域から発信していけたら、それは力になるはずです。
日本全国には、平成27年7月8日現在で、日本全国に110の重要伝統的建造物群保存地区があります。こうした地区が増えていったり、面的な広がりを持って行くためには、古い建物に合った方法による修繕や維持が必須となります。伝統構法が分かるつくり手が存在感をもって仕事をできる環境づくりや、地域での後進の育成を応援するしくみが必要です。
持続可能型社会の構築にむけて
伝統構法は「古いもの」であるだけでなく、むしろ「これからの建築のあるべき姿」を示唆する「環境建築」であると捉えることができます。伝統構法は、地域の木や土といった身近にある自然素材を使い、製造エネルギーも少なく、長寿命の家づくりを可能とする技術です。住まわれなくなった後でも、材を解体して再利用することもできますし、万一廃棄するとしても、燃料にしても有害ガスを出すこともなく、最終的にはきれいに土に還ります。
新建材を使い、木造軸組であっても、金物接合による建築であれば「大量のゴミ」となりかねないのですが、自然素材を使い、木と木を木で組む「伝統構法」であれば、そのような懸念はありません。また、伝統構法の家づくりの場合、新建材で代用する部材を木や土でまかないますので、材積が多く、近くの山の木を「使うことで育てる」というプラスの循環をつくり出すこともできます。
東日本大震災後、エネルギーを無闇と使うのでなく、環境と共生しながら、こじんまりと暮らすことを望む人たちも増えて来ています。これまで「伝統構法」というと、敷居や趣味性の高いものとして捉えられがちだったかもしれませんが、そのような時代の流れの中で「環境負荷が少ない」ということから、関心をもつ人も増えてきています。
「外部環境をしっかり遮断した室内環境を作って、その中でなるべく少ないエネルギーで暮らす」というのが、西洋での環境先進国ドイツにおける「省エネ」の大前提ですが、より気候がゆるやかな日本ではそれぞれの地域に合った「自然とのつながり」の中で、エネルギー使用量を抑えた暮らしを考えていけるとよいのではないでしょうか。