在来工法との比較

「伝統構法」とは、大まかに言うと西洋建築学の影響を受ける以前の日本建築のことであり「木の特性を活かし、木と木を組み上げて建物を構成する」のが最大の特徴です。自然に対抗するのでなく自然と共生する価値観、多様で不揃いな自然素材を巧みに活かす高度な知恵や工夫が見られます。

西洋建築の影響を受ける以前の「伝統構法」

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(左から)1.ドイツの伝統建築のFachwerkと呼ばれる斜材の木組み 2.石積みの基壇の上に、斜材をところどころに入れた角材を組んだ壁を作る 3.4.日本の伝統構法に斜材は入らない(写真協力:3.伝匠舎 石川工務所 4.持留和也)

西洋建築学の影響による建物の耐震化が始まるのは、濃尾地震以降

「伝統構法」は、時代の要請とともに、常に変化し続けているものであるために定義づけがむずかしく、学問的には、その確立された定義づけというものは、ありません。しかし、西洋建築学の影響を受ける前までの日本建築は「伝統構法」であるととらえるならば、明治24年(1891年)の濃尾地震の翌年に発足した「震災予防調査会」が、西洋建築の考えを取り入れた「建物耐震化」を初めて提唱していることから、およそそれ以前までの日本建築は、伝統構法であるといえるでしょう。

木の特質を活かした、木組みが基本

濃尾地震以前に建てられ、今なお現存する建築例について、保存修理報告書の分析や実地調査であたってみると、建築年代、地域、気候風土などによってかなり幅はあるものの、西洋建築の影響を受ける前の日本の建築の形が見えてきます。最大公約数的な要素を抽出すると「丸太や製材した木材を使用し、木の特性を活かして日本古来の継手・仕口によって組上げた金物に頼らない軸組構法」ということになります。

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(左から)1.丸太や製材を構造材にしていく 2.木組みができるよう、大工が仕口・継手を刻み加工する 3.仕口・継手で、軸組構造を組み上げていく(写真協力:大江忍)

(参考)
伝統的構法の定義(伝統的構法の設計法作成および性能検証実験検討委員会 歴史構法部会)http://green-arch.or.jp/dentoh/forum_1212_4_dentoh.html

在来工法と伝統構法の相違点

同じ木造軸組工法でも、伝統構法には、現在の建築基準法に位置づけらている在来工法と、次のような点で異なった性質があります。

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職人がつくる木の家ネットより転載(作図協力:宮越喜彦)

 在来工法(建築基準法)伝統構法
足元建物には土台を敷き、基礎に金物で緊結する石場建てなど、基礎に緊結しない場合もある
構成筋交いや火打など斜材を使う貫・差物などによる水平垂直の貫構造
接合部金物で結合する木の特性を活かした継手仕口加工による「木組み」
ボードやバネルなどが多い小舞下地の土塗り壁または板壁
木材の扱い合板や木質系といった木質系工業製品も使う木をそのままに使う製材が基本
材料均質であることが前提となる自然素材を扱うため、多様で不揃い
自然の脅威に対する構え外力に対して、堅固に対抗する変形しながら粘り強くこらえ、もちこたえる
変形性能損傷限界は 1/120
安全限界は 1/30までと規定される
軸組の曲げ抵抗、木材のめり込みによる接合部の回転抵抗、壁体の剪断抵抗により、より高い変形性能を有する

現在でも、伝統構法の知恵や工夫を取り入れた家づくりの要素を取り入れた「伝統木造」による建築は、社寺・数寄屋・民家においてなされています。

上の表では「伝統構法」と「在来工法」とを対比させて示していますが、両者ははっきりと分かれているのではなく、蕎麦にも十割蕎麦と二八蕎麦があるのと同じように、伝統構法の要素を「どの程度取り入れるか」は、地域の気候風土やつくり手によっても違いますし、同じつくり手によるものでも、ひとつひとつの建築事例に応じて、多様です。

伝統構法に独特の技術要素

木組み

木と木を組んで、構造体をつくる。

栓や楔

金物接合でなく、木と木を木でつなぐ。

仕口

木同士の端部を凹凸に刻んで組み合わせる

継手

木を延長する場合の独特の加工の工夫

柱間は斜め材は使わず、直行する貫でつなぐ。

小舞

柱と貫との間に竹や板で格子を編み、壁の下地とする

土壁

藁スサをまぜて発酵させた土を小舞下地に何重にも塗り重ねる

石場建て

柱を基礎石に直置きする、建物と地面は緊結しない建て方

建物の周囲に傘をさしたように、屋根を外壁より延ばすことで建物を風雨や陽射しから守る。

屋根

瓦、茅、板、杮、檜皮など、身近な材料で葺く。地方色豊かなバリエーションがある。

建具

開け閉てのできる可動の開口部を用いて、外回りや部屋間を仕切る。

藁床にい草の表をつけた、座の生活に適した柔らかい床。


建築基準法と伝統構法

現在、新築をすれば適用される建築基準法は、伝統構法とは違った西洋建築学の考え方に依拠しているために、伝統構法の要素を取り入れようとすれば、多かれ少なかれ壁にぶつかることや、困難をともなうことも多いものです。

しかし、昨今では、文化的な側面、環境への負荷が少ないという環境特性、共生の概念、観光的な意義などから、少しずつ伝統構法への評価は高まってきています。第186回 国会 閣法62号 建築基準法の一部を改正する法律案 では「伝統的工法による木造建築物についても一般的に建築が可能となるよう、基準の策定等に向けた検討を行うこと」という附帯決議がなされたり、平成26 年6月3日に閣議決定された「国土強靱化基本計画」に「伝統的構法等の研究開発・基準の策定・ 普及」という文言が入ったりするようになったのも、そのあらわれといえるでしょう。

「伝統構法を無形文化遺産に!」運動が成就することで、過去につくられた建物が世界遺産になるばかりでなく、それを作ったり直したりする共通の技術である「伝統構法」が見直され、これからも作り続けられるような法律的な環境整備や供給体制、技術継承が可能となるような人材育成体制などが整っていくことを望んでいます。「平成の世に、伝統構法は衰退した」ということにならないよう、努力を続けてまいりたいと思います。

(参考)
建築基準法で対応が困難な点について、職人がつくる木の家ネットで実施した公開アンケートのまとめ

第186回 国会 閣法62号 附帯決議